[ 連載 ]

新聞の正しい読み方

第1回 デジタル時代に「紙」の読み方を学ぶ意義は?

2016年6月28日

 201511_NTT_松林バナー_02

 『新聞の正しい読み方――情報のプロはこう読んでいる!』の発売から3カ月が経ちました。毎日新聞、マイナビニュースなど各種媒体でも取り上げられ、近く3刷が書店に並ぶ予定です。

 5月19日にはジュンク堂難波店のご厚意で刊行記念トークイベント「新聞を10倍活用する術」を開かせていただきました。今回は、その際に会場でいただいた質問と、その回答をいくつか再構成して紹介したいと思います。

 Q:株式投資を始めたのですが、日経新聞を読んだ方がいいでしょうか。

A:元記者としては日経をお勧めしたいのですが、率直に言ってケースバイケースだと思います。株の初心者の場合、日経の情報は専門的すぎてオーバースペックということもあるのではないでしょうか。

 日経の投資情報が最も充実していることは間違いありません。初心者向けの記事もたくさんあって、私も書いていました。ただ、実は投資情報については日経以外の新聞も力を入れ始めています。実際に何紙か読み比べてみて、「理解できる」ものを選ぶことをお勧めします。難しすぎて理解できないのであれば意味がないですから。

 これは就活生などについても言えるのですが、「知識を得る」ということが目的なら、苦労せず読める新聞を選ぶのがいいと思います。読み比べるとわかりますが、読みやすさというのは新聞によってけっこう違うものなのです。

 私が日経に入社したころ、先輩から「日経の経済記事を読んでよくわからないときは読売新聞で同じニュースを扱った記事を読め」と言われたことがあります。

 理由は簡単で、読売は最も発行部数が多いからです。当時は1000万部と言われていました。それだけたくさん読者がいると、知識レベルも様々です。そうした幅広い読者に理解してもらうために、徹底してわかりやすく書くわけです。逆に日経は主要読者はビジネスパーソンですから、最低限の経済知識はあるという前提で書きます。すると、「難しい」という人がたくさん出てくるわけです。

 新聞は、職場などで共通の話題にするために読む側面があるので、みんなが日経を読んでいる会社に就職した人などは最初は苦労してでも日経を読んだ方がいいかもしれません。「日経を読む」ということ自体に意味があるからです。

しかし、新聞から特定の知識を得たいという場合は、その分野の情報が掲載されていて、かつ読んで自分が理解できることが重要だと思います。

 Q:最近は新聞や記事のデータベースも電子版が主流になりつつあります。そうしたものを利用する場合でも「紙の新聞」についての知識は必要だと考えますか。

A:少なくとも私はそう考えています。もちろん、10年先は状況が大きく変わっているかもしれませんが、逆に10年くらいは「紙」は無くならないでしょう。そして、今でも記者の大半は「紙面」に載せることを第一に考えて記事を書いています。記者にとっては「1面のトップ記事を書く」ことが目標になっているのです。

 この部分は各社とも「デジタル・ファースト」などと意識改革を進めている最中ですが、文化として組織に染み付いているので簡単には変わらないでしょう。スマホ向けに流されている記事や、データベースに収録されている記事も、ほとんどは「紙」を想定して書かれているわけです。

 とくに大学生など若い人たちと話していると、「見出しが重要度の格付けを表している」といった基本的な知識さえ共有されなくなっています。そうした現実はむしろ新聞社や記者の方が無自覚で、『新聞の正しい読み方』を出した後、元同僚と話していると「それって読者は分かってないんだろうか」と言われることがあります。

 でも、記者の間で読者にとっても常識だろうと思われていることが、読者には伝わっていないのです。デジタルが主流になって「紙」を知らない人が増えているからこそ、そうした知識を再確認する教育は必要になるのではないかと考えています。『新聞の正しい読み方』を書いた問題意識も、そういうところにあるわけです。

 Q:私は外国人に新聞を使って日本語を教えているのですが、教材としてどのような記事がおすすめですか。

A:日本語の初心者の方には、一般紙などに出てくるQ&A形式の解説記事がおすすめです。例えば毎日新聞なら「質問なるほドリ」というシリーズがあります。「なるほドリ」というゆるキャラが登場し、その日の紙面で取り上げられているニュースについて記者に質問するというコーナーです。

 この手の解説記事は、新聞を読み始めたばかりの人を想定して書かれているので、やさしい話し言葉で書かれています。ニュースについても、基礎知識がなくても理解できるよう、かなり初歩的な内容から説明されているのが普通です。話題のニュースを理解しながら基本的な日本語の会話を学ぶには手頃なのではないでしょうか。

 同様に、記者会見でのやりとりを収録した一問一答やインタビュー記事も会話の参考になるでしょう。

 日本語の中・上級者が文章について学ぶのであれば、1面のコラムがいいでしょう。読売新聞なら「編集手帳」、朝日新聞なら「天声人語」です。これらは日本人が作文やスピーチ原稿を学ぶ際にも活用されていて、「書き写しノート」のような商品も販売されています。

 これらのコラムの利点は、短くてすぐに読めることです。そもそも1面に載せる記事は、最も紙面閲読率が高いので、幅広い読者が読めるよう意識して書かれています。例えば専門性が高い日経新聞でも、1面に記事を書く時は記者とデスクは専門用語をなるべく使わないよう気をつけます。

 マーケット面に書く相場記事などでは何の注釈もなく「下げ渋る」や「無担保コール」といった専門用語・表現を使います。しかし、同じ内容の記事でも1面に出すことになれば、金融に詳しくない人が読んでも違和感がないよう一般的な表現に変え、専門用語にもカッコなどで意味を付け加えたり、用語解説を別項で用意したりするのです。

 当然、1面のコラムもそうした配慮がなされているので、基本的には義務教育を終えた人であればほとんど辞書を引かなくても読める表現で書かれています。一方で、冒頭の「つかみ」の部分では、日本文化についてのちょっとしたうんちくや、過去に起きた有名な事件について触れたりします。こうした部分も、日本の歴史や文化を学び始めた人には有益なのではないでしょうか。

  このシリーズでは新聞の読み方についての「基礎編」を連載してきましたが、今後は『新聞の正しい読み方』に書いたノウハウの応用や、具体的なニュースについての雑感などを掲載していきます。