[ 連載 ]

正しい新聞の読み方

第9回 「飛ばし記事」と誤報の違いは?

2016年2月23日

20160201_新聞の正しい読み方_7

 

スクープを逃した側の表現

 前回は、スクープ記事のリード文でよく使われる表現について説明しました。では、逆にスクープを逃した側の新聞社はどういう表現を使うのでしょう。

  他紙が書いたニュースについて後から報じることを、新聞業界では「追いかける」と言います。「後追い記事」「追っかけ記事」などと呼ばれ、記者としては一番書きたくない原稿です。Twitterでシェア

  他紙がスクープを放った場合、その分野の担当記者はすぐに真偽を取材で確認します。その結果、他紙の報道が正しいと分かった場合、すみやかに記事を掲載しなければなりません。ライバル紙にスクープが載ったのが平日か土曜日の朝刊であれば、午前10時くらいまでには確認を終えて、その日の夕刊に間に合うよう原稿を出す必要があるのです。

  実は、こうした後追い記事では、「〜であることが◯日、わかった」という表現がよく使われます。Twitterでシェア

  厳密に言えば、「ライバルの◯◯新聞が報じたのでわかった」のですが、日本の新聞はそうは書きません。ただ、「わかった」と書くのです。例えば、M&Aのスクープ記事を追いかけるケースなら、「A社とB社が合併する方針を固めたことがわかった」といった具合です。

  もちろん、これにも例外はあります。「わかった」と書いているからといって、全てが後追い記事とは限りません。とくに「捜査関係者への取材でわかった」「◯◯新聞の調査でわかった」などと、わざわざ情報源や取材方法に触れている場合は、独自記事の可能性が高いとみていいでしょう。

  しかし、例えば「〜の方針を固めたことがわかった」という表現であれば、追いかけ記事である可能性が高いと判断できます。前回説明したように、「〜の方針を固めた」や「〜の方向で最終調整に入った」といった表現は記者がスクープを狙う時の表現です。本来、わざわざ「わかった」をつける必要はないのです。

「発表」と「正式発表」

  さて、報じられた側の企業や役所は、組織としての手続きを終えてから記者発表をします。記者会見を開いたり、プレスリリースを出したりするわけです。

 こうした記者発表を報じる記事を読んでいると、「〜について発表した」という表現の他に、ときどき「正式発表した」と書いてあるケースがあります。よほど注意して読んでいないと気づかない、些細な違いですが、「発表」と「正式発表」という2つの表現が存在するのです。

  しかし、よく考えてみると「正式発表」とはおかしな言い方です。

 もちろん、記者会見などの前に報じられた内容を、企業や役所が「非公式に認める」ケースはあります。こうした「事実上の発表」の後に開かれた会見を「正式に発表した」と報じるケースはあります。

  しかし、そうでない場合も「正式発表した」という表現は使われます。記者会見自体が公式なイベントであり、「非公式=正式ではない発表」であるはずがないのに、わざわざ「正式」という言葉を付け加えているのです。

  実は、新聞が「正式発表した」と書くときは、自社がそのニュースをスクープしていることを誇示しているのです。「他紙に先駆けてこのニュースを報じたのは我が社です。それを当事者も『正式』に認めましたよ」とアピールするための言い回しなのです。Twitterでシェア

  週刊誌などでは、スクープの続報の中で「本誌の既報通り」と書いていることがあります。「ほらね、我々が報じたとおりでしょう」というちょっと誇らしげな気分が伝わってくるような表現です。新聞では「正式発表した」という表現に、これと同じ意味を込めているわけです。

  ただし、自社のスクープであれば全て「正式発表した」と書いているというわけではありません。「発表した」としか書いていなくても、その新聞社のスクープであるケースはあります。

 実は、どんなときに「正式発表」と書くかという基準は、とくに決まっていません。一般的には、読者に特ダネであったことを強調したい、スクープの中でもとくに重要なケースで使われると考えてください。

  この例からも、読み飛ばしてしまいそうなくらい小さな表現の違いに、意外な意味が隠されていることはわかっていただけたと思います。

 ただ、こうした表現の違いは読者にほとんど知られていません。このことが、報道をめぐる様々な誤解を生んでいるように思います。

「飛ばし記事」 とは?

 ところで最近、一般の人の間でも「飛ばし記事」という言葉が使われるようになりました。ネットなどでの使用例を見る限り、「憶測だけで書いている」という意味で使われることが多いようです。「書き飛ばす」というニュアンスでしょうか。

  まず断っておきたいのは、全国紙、通信社、NHKの間では、関係者の噂や憶測だけに基づいて、つまりウラを取らずに記事を書くことは明確な「ルール違反」だということです。Twitterでシェアこうした記事を書いたことがわかれば、記者としての地位も危うくなるのが現実です。

  もちろん過去には、実際には取材をしていないのに報じたことが明らかになり、指弾されたケースが少なからずあります。裏付けが不十分な、「誤報」に近い「飛ばし」があることも事実です。しかし、決定過程のかなり前段階で報じるという意味での「飛ばし」と、「憶測だけで書かれた記事」とはまったく意味が異なります。Twitterでシェア

  例えば、「〜の方向で検討に入った」と書かれた内容が実現しないケースはときどきあります。前回説明したように、こうした表現を使っていること自体が、「不確定要素をたくさん含んでいる」ことを表しているのです。

  報道自体が、当事者の交渉や意思決定に影響を与えるケースもあります。例えばM&Aの記事であれば、それまで交渉の事実を知らなかったライバルが妨害工作を始めるかもしれません。買われる側の企業の株価が報道の影響で上がってしまい、その結果、交渉が破談になることもあるでしょう。

  ただし、原則として「交渉している事実はある」ということです。その場合、結果として合併が実現しなかったとしても、記事自体は「誤報」ではないのです。