[ 連載 ]

正しい新聞の読み方

第8回 「検討に入った」と「方針を固めた」の違いは?

2016年2月16日

20160201_新聞の正しい読み方_7

新聞記事の表現

 全国紙や地方紙のニュース記事の書き方は、実はかなりの程度、統一されています。

  理由の一つは、通信社の配信記事を使うためです。例えば全国に取材拠点を持てない地方紙は、地元以外のニュースについては、共同通信や時事通信が配信する記事を掲載しています。例えば国会の動きや、東京に本社がある企業の発表などは、ほとんどが共同の記事なのです。全国紙も、海外のニュースなどでは配信記事を使うことがあります。

  もし、通信社の記事と自社の記事で、書き方がバラバラだと、とても読みにくい紙面になってしまいます。同じ紙面なのに、トップ記事が「総理大臣は」と書いて、隣にあるサイド記事が「首相は」と書いていれば、チグハグな印象を受けるでしょう。こうしたばらつきをなくすため、使う漢字の種類や、企業や団体の略称はもちろん、文章の表現などまで統一しているのです。

  書き方のルールには、明文化されているものと、業界の長年の文化として定着しているものとがあります。前者は『用字用語』という本にまとめられており、市販されています。一方、記事の構成や文章表現には「暗黙のルール」があり、各社で共有されているのです。

記事の構成は逆三角形

 記事の構成もその一つです。ニュース記事には見出しがあり、次に「リード文」がついています。リードは前文(まえぶん)とも呼ばれ、トップ記事では独立しています。その他の記事では、第1段落がリード文になっています。

  ニュース記事の第1段落(リード文)は、必ず記事全体の要約になっています。言い換えると、ここだけ読めばニュースの概要はつかめます。背景などは第2段落以降に書かれており、一般に重要なことから先に書いていく「逆三角形」の構成になっています。Twitterでシェア

  第8回「記事は逆三角形」

 これは新聞を効率的に読む上で、不可欠な知識です。

  忙しくてゆっくり新聞を読めないときは、ページをめくりながら、見出しだけを拾い読みしていきます。すでに説明したように、紙の新聞の見出しはそれ自体が「読み物」になっていて、内容や結論がわかるように付けられているからです。

  見出しを読んで、もう少し詳しく知りたいと思ったら、リード文に目を通します。これで、いわゆるニュースの5W1H(いつ、どこで、だれが、何を、なぜ、どのように)の大部分を押さえることができます。Twitterでシェア

 その上で、さらに細かい点を知る必要があれば、第2段落以降の本文を読んでいけばいいのです。

  このリード文を読む上で知っておきたいのが、独特の定型表現です。新聞には「こういうケースではこういう言い方をする」という暗黙のルールがあり、それを知っていると情報をより深く分析できるのです。

  みなさんは、リード文に「〜の方向で検討に入った」「〜の方針を固めた」「〜に向けて最終調整に入った」といった表現が使われているのを見たことがあるでしょうか。いずれもスクープ記事で多用されるのですが、ほとんどの人は「〜することがほぼ決まった」という意味で、区別せずに受け取っていると思います。しかし、実は記者はこれらの表現を状況によって使い分けているのです。

 「合併交渉」のスクープの場合

 どんな違いがあるか、企業の合併についての記事を例に説明しましょう。

  スクープは、当事者や関係者が発表する前に書くことが前提になります。記者会見やプレスリリースの後では、他紙と同着になってしまうからです。これは企業合併でも同じです。合併する2社が社内での手続きを終えて記者会見やプレスリリースをしてしまえば、記事は他紙と同着になってしまいます。言い換えると、記事は「ニュースが正式に決まる前」に書く必要があるわけです。

  では、どの段階で記事を書けばいいのでしょう。

  一般に合併が実現するまでには、構想が浮上してから数ヶ月、場合によっては1年以上の時間を要します。

 例えば最初は、A社とB社の社長が秘密裏に会食します。この非公式なトップ会談で、お互いに合併の可能性を探るという合意がなされます。ただし、この段階では、トップ同士が個人レベルで「合併の可能性を探ることを決めた」だけです。

 翌日以降、両トップが企画担当役員など、ごく少数の腹心に手法やメリット・デメリットなどの研究を命じるでしょう。

  お互いが「これはいけそうだ」ということになると、両社は守秘義務契約を結び、水面下で正式な交渉に入ります。この段階になると、それぞれが銀行や証券会社と契約を結び、法律や金融に関する助言を得ながら検討を進めます。監督官庁がある業界の場合は、合併後の認可を得られるかどうか、非公式に打診もしなければなりません。いわゆる根回しです。

  こうした段階を経て、両社が合併の実現可能性が高いと判断すれば、それぞれが取締役会での決定を経て、合併条件などをめぐる最終的な交渉に入るという「基本合意」をします。合併後の社名など、細かい条件はまだ決まっていないこともありますが、企業が記者会見を開くのはだいたい、この段階です。

  その後、細かい条件が決まったら「最終合意」の手続きをします。さらに株主総会での決議などを経て合併が実現するのです。

  このケースで、記者にとって最初のチャンスは、A社とB社が水面下で交渉を始めた段階でしょう。

  取材の結果、記者が合併構想の証拠を掴んだとしましょう。ただし、この段階では「A社とB社が合併の可能性を探っている」という事実しかありません。

 両社が示す条件によっては破談になりますし、合併後の会社が業界のなかで独占的シェアを持つ場合、公正取引委員会が認めない可能性もあります。

  ただ、2社が合併する意思を持って話し合っているのは事実です。

 このようなケースで、記者は「A社とB社は合併する方向で検討に入った」という表現を使って記事を書き出します。

  これでお分かりのように、「〜の方向で検討に入った」という表現が使われるのは、かなり流動的な要素が残っている段階です。実際、同じ記事の中で「A社とB社の間では合併条件をめぐってなお隔たりがあり、交渉が難航する可能性もある」などと、先行きが不透明であることを明記する場合もあります。

 リード文の表現2

「~する方針を固めた」はどんな意味?

 では、もう少し事態が進んだ段階で記事を書くときにはどのような表現が使われるのでしょうか。

  交渉を進めてみて、合併の具体的な形が見えてきたとしましょう。両トップとも、基本合意にこぎつける自信を深めています。この段階になると「A社とB社は合併する方針を固めた」と書くことができます。

  「最終調整」という表現を使うこともあります。「A社とB社は◯日にも基本合意する方向で最終調整に入った」などと書くわけです。

 この表現には、「組織として決定する手続きは残っているし、細かい点でいくつか詰めなければならないことはあるけれど、ほぼ全容は固まっている」というニュアンスが込められています。

  基本合意の直前で、記者も取材内容に自信を持っている場合は、さらに断定調で書くこともあります。「A社とB社は◯日に合併について基本合意する」といった感じです。

  このように、リード文の表現を注意深く読めば、報じられているニュースの進捗状況や、記者の確信の度合いを推し量ることができます。Twitterでシェア

 「方向で検討に入った」という記事なら、まだ結末がどうなるか分からないと考えたほうがいいし、断定調の記事であれば、その新聞社はかなり詳細な情報を握った上で書いており、実現性も高いと判断できるのです。Twitterでシェア

  どうでしょう。うっかり見過ごしてしまいそうな表現に、重要な情報が埋め込まれていることがお分りいただけたでしょうか。