[ 連載 ]

マンガこそ読書だ!!

第5回『そうだ、食べ放題いこう。』西つるみ

2015年1月28日

New_BANNER_manga201601

 いまの世の中、「食べる」ことは娯楽の真ん中にあると言っても過言ではないのではないか。

 テレビをつければグルメ情報がレポートされ、雑誌やムックでもレストランからスイーツまで、どちらを向いても美食の情報はあふれている。

 一方で、「たくさん食べる」ということも、人々の耳目を集め続けている。大食いを競い合うような趣旨のテレビ番組も目にするし、量の多さを売りにするラーメンやファストフードもよく見かける。

 女性向け媒体、いわゆる女性誌でも「食」は人気の特集テーマだ。ただ、女性向けのアプローチは主に、美味しくて見た目もオシャレなもの、つまり大きくくくれば「グルメ」な側面からのレストランやフードの特集が主流のように思う。さらに「美食」は、しばしば高価ということもあり、女性向けの雑誌などでは適量、もしくは少しだけ味わう……という方向性で紹介されることが多いように感じる。

  そんななか、破格の食レポマンガが登場した。

 『FEEL YOUNG』という大人の女性向けマンガ誌で、マンガ家さんと女性編集者が東京近郊の美味しいお店に行って、レポートする……というこの作品。それだけならそれほど珍しくないかもしれないが、なんと出かけるお店は、すべて「食べ放題」なのだ。しかも、美味しいお店ばかり、というのだから、これはすごい。

 というのも、なにごとも「すべての条件を満たすもの」というのはなかなか存在しないのが常だからだ。

 この企画も、「上質なものをお手軽に満足ゆくまで食べる」様子をレポートすることで、大人女性へのごほうび的な食べ放題を紹介する、というのがコンセプトだそうだ。だが、「お手軽」と「満足ゆくまで食べる」を実現してくれるのが「食べ放題」というところまではナルホド、と思ったが、ここに「上質なもの」という条件が入ると、とたんに実現が難しくなるような気がしていた。つまり、コストが高くついてしまい、「お手軽」とは両立しなさそう……という思い込みが私にはあったのだ。

 だが、食べるの大好きな担当編集者のK成さんがチョイスしてくるお店は、どこも本当に美味しそうで、「食べ放題」ゆえに金額も、贅沢さに比して全般になかなかリーズナブル。というわけで、「美味しい食べ放題のお店」こそが、両立の難しい条件の数々をばっちりと満たす桃源郷であることを、この作品に教えてもらったのである。

  食べ放題、となると、つい「モトをとらなければ」という思いにとらわれ、量をこなすことに躍起になりがちなものだが、OLとの兼業マンガ家である西つるみさんと担当のK成さんのお二人は、量だけじゃなくて、一つ一つの料理を味わうことにもいたって本気なのが頼もしい。見た目や味はもちろん、食感(重要!)や、お腹にたまるかどうかまでも細やかに伝えようとしてくれるのが嬉しい。毎回12ページと短いながらも西さんの手際の良さが光る紹介も、テンポ良くマンガとして楽しませてくれながら、情報もしっかり教えてくれるという周到な構成だ。

 そしてもちろん、「食べ放題」であるからには、たくさん食べてくれないと読んでいて寂しいものがあるが、その点でもお二人は非常に頼もしい。職場では一番の大食い、という西さんが「私…井の中の蛙だったわ…」とボーゼンとするほどの、担当K成さんのみごとな食べっぷりはもはや痛快という域で、ほれぼれしてしまう。助っ人で現れるK成さんの先輩・後輩編集者のみなさん(全員女子)も、それぞれにすがすがしい食べっぷりなのだ。

 お二人は寿司、カレー、シュラスコ(ブラジルのバーベキュー)、和食にスイーツと次々と11のお店に出かけてゆくのだが、西さんは甘党でスイーツ系好き、担当のK成さんは肉やしょっぱいものが好き、という嗜好の違いが、毎回行くお店によって二人のテンションの温度差になっているのも読んでいて面白い。私自身もあんまりスイーツ欲がなくて、肉!魚!(&野菜と酒)でテンションがぎゅんぎゅんあがるタイプなので、その部分はK成さんに共感しまくりながら読んでいた。

 また食べ放題のレポートというのは、実は「頼んだ料理を食べきれないと、下手すると食べ物を粗末にしている感が出てしまう」というあやうさもある、けっこう難しい企画でもあると思うのだが、初回でもうお腹いっぱいです、という西さんに担当K成さんが言う

「いいんですよ おいしいところまでで」

 という言葉が象徴するように、あくまで「おいしい」ものを「おいしく食べられる範囲」で食べる、ということが基調になっているので、かなりの量を食べていてもどこか品を保っていて、それが読後感のよさになっていると思うのだ。そんな本作は、好評を得て単行本化したいまも、『FEEL YOUNG』で連載継続中なのも嬉しい限りである。こちら

http://www.shodensha.co.jp/tabehoudai/

の「お試し読み」で一部読めるので、気になった方はのぞいてみて欲しい。

 ところで、この作品を読んでいると、なんだか既視感のある非日常感、祝祭感におそわれるのである。う~ん、この感じ、なにかに似てる…なんだろう…と考えていて気がついた。

 お正月だ。お正月に似ているのだ。

 以前に比べれば特別感は薄まってきてはいるお正月だが、たっぷりの食べ物を用意して、大晦日には夜中にお蕎麦を食べ、元旦からはお雑煮におせち、せっかくのお正月だからとはりきって年末買い込んだ数々の食べ物をニコニコとたいらげ、親族の家に行けば料理はもちろん、酒と手土産のスイーツも完食。たとえ出かけなくても「いいよね、お正月だから」と罪悪感なく朝からふだんと違うごちそうを食べてしまい、あげくお腹がいっぱいになって昼寝に突入したりする、あのお腹がすく間もないようなお祭り感。

 当然、休み明けには数キロ太って体重計の上で思わず「え!?なんで!?」と焦って声をあげ、「いや…考えてみれば朝から食っちゃ寝の繰り返しだったわ…」とか我に返るくせに、毎年懲りずにやってしまうあの日々の、開放感と幸福感。日常が「ケ」なら、まさに「ハレ」の快楽。

 あのリミッターが外れた晴れやかな感じとよく似た喜びがこのレポからは伝わってきて、「あ、そうか。食べ放題って、日常の隣にある、<プチ正月>なのね」と妙に納得してしまったのであった。

 それにしても、「すべての条件を満たすもの」はなかなか存在しない、と書いたけれど、いいことずくめの「食べ放題」も、残念ながらあの重大問題とは対立してしまう。

 そう、女性誌でもグルメと並んでよく特集されるアレ。「ダイエット」である。

 私も食べることが大好きで、もともとかなりの大食いなのだが、年齢とともに代謝はどんどん落ちていくわけで、心のままにばくばく食べていると、消費しきれないカロリーがばっちりと体重になる……という厳しいゲンジツのもと、いじましく工夫して食べ過ぎないよう心がけている。

 でも、なにかいいことがあったり、逆につらいときには、この本でとりあげているお店の食べ放題に行っちゃおうかな~、とこのマンガを読んで思った。

 だって、食べることは日常の中の祝祭。

 そして食べ放題は、一定の金額で、ちょっぴり窮屈な日々からつかのま抜け出して、おいしいものを思い切り食べまくる、という本能に根ざした贅沢な開放感を味わえる「プチ正月」なのだから。

 そして、たとえ食べ放題に行けないときも、一人でこの単行本を開いて、一年中いつでも脳内でうっとりと「正月感」を満喫したいなあ、と思ってしまったのである。