[ 連載 ]

正しい新聞の読み方

第1回 新聞、読めていますか?

2015年12月28日

新聞の読み方第1回(入校) 

 みなさんは、「新聞」の読み方をご存知でしょうか。

  あえてこんな失礼なことを聞いてみたのには訳があります。最近、新聞の読者層が急速に広がっているにもかかわらず、その「正しい読み方」についての情報が圧倒的に不足しているのではないか、と思ったからです。

  「新聞が読まれるようになった」などと言うと、驚く人が多いでしょう。私は昨年10月まで日本経済新聞の記者をしていたのですが、こう言うと元同僚でさえ「えっ?」という顔をします。無理もありません。近年、新聞離れが加速している、というのが記者たちの間では「定説」になっているからです。

  日本新聞協会によると、2015年までの10年間で、一般紙の発行部数は649万部減りました(概数、以下同)。これは毎日新聞と産経新聞が発行する朝刊の合計(488万部)を大幅に上回る部数です。

減少のスピードも10年前と比べて加速しており、2014年からの1年間だけで99万部も減りました。これは規模から言えば毎年、北海道新聞、河北新報、中国新聞、西日本新聞といった大手の地方紙1〜2社分が消えていっているイメージです。

  しかし、発行部数や定期購読者の減少は、「読者の減少」「影響力の低下」と必ずしもイコールではありません。新聞記事は紙媒体だけでなく、急速に普及し続けているネットでも配信されているからです。

  そう、実はネットの普及によって、私たちが新聞記事を読む機会はむしろ増えている可能性が高いのです。 Twitterでシェア

 ネット情報の多くは実は新聞

 例えば、「新聞は読まない」という人でも、パソコンやスマートホンでヤフーニュースなどに目を通すことは少なくないでしょう。トップページの記事を見ると、ブログや雑誌などの記事も転載されていますが、3分の1から半分くらいは新聞社や通信社が配信したものです。

 「2ちゃんねる」などのネット掲示板にも、違法なものも含め、コピペされた新聞記事があふれています。最近は、記事を様々な媒体から集めてスマホなどに配信する「キュレーションアプリ」も人気です。

  こうした配信ルートは、ネットが普及する前には存在しませんでした。

 私が大学時代を過ごした時期は、ちょうどインターネットが一般市民の生活に入ってきた1990年代です。そのころ、新聞社はまだ記事のネット配信をほとんどしていませんでした。すでに新聞を読まない学生が大多数を占めていましたが、こうした人たちは今と違って「まったく」新聞記事に触れていなかったのです。

  これに対し、今の新聞の「無購読層」は、本人が意識する・しないにかかわらず、けっこう新聞記者の書いた記事を読んでいます。

 さらに、ブログやネットメディアの記事には、新聞記事を引用する形で書かれたものが少なくありません。こうした間接的な利用も、紙媒体しかなかった20年前と比べると飛躍的に増えました。

  要するに、紙媒体としての新聞はどんどん減っている一方で、「新聞記事」自体はこれまで読まれていなかった人たちにまで読まれ、活用されるようになっています。「情報収集はネットで十分」と考えている人たちでさえ、実は受け取っている文字情報のかなりの部分が「新聞」由来なのです。

新聞表現の特徴 

 ところが、ネットに親しんでいる若い世代は、ほとんどが「紙の新聞」を継続して読んだ経験を持っていません。

 実は、ネットに流れている記事を正確に理解する場合でも、「紙の新聞」についての基礎知識が不可欠です。Twitterでシェアネットで流れている記事も、ほとんどは「紙面」に載せることを前提に書かれているからです。

 紙面に掲載できる字数には限りがあり、印刷の締め切り時刻も厳格に決まっています。元の記事には、そうした様々な制約を克服するための「工夫」が詰め込まれています。

  ところがネットに転載する際、そうした「工夫」の部分は削ぎ落とされてしまいます。

 こうした事情を知って読むのと知らずに読むのとでは、ニュースへの理解に大きな差が生じてしまうことは容易に想像できるでしょう。

  それだけではありません。

 ネットでしか記事を読まない人はもちろん、紙の新聞を読み慣れている読者でも、「新聞特有の表現ルールを知った上で読んでいる」という人は、私が知る限り、ほとんどいません。実は、ほとんどの人は「正しい読み方」を知らないまま記事を読んでいるのです。

  具体例を挙げておきましょう。

 みなさんは、政治や経済に関する記事に、「〜する方向で検討に入った」とか、「〜の方針を固めた」といった表現が多用されていることにお気づきでしょうか。「〜に向けて最終調整している」という表現もよく出てきます。

  ほとんどの人は、いずれも「〜することがほぼ決まった」という意味だと、区別せずに受け取っているのではないでしょうか。

  ところが、新聞記者はそれぞれの表現を使い分けているのです。明文化されているわけではないのですが、新聞記者の間では「こういう状況ではこの表現を使う」という一種のルールが共有されているからです。

  こうした表現の意味を知っていれば「この話はまだ生煮えで、実現しない可能性も少なからずあるな」などと、報じられた内容の進捗状況や実現性を判断することができます。

 実際、新聞記者をはじめとした「情報のプロ」がニュースを読むときには、こうした表現に注目しながら読んでいるのです。

 新聞の「責任」

 しかし、こうした知識がなければ「大新聞が1面のトップで報じているのだから、明日にも実現するはずだ」と単純に考えてしまうでしょう。もし実現しなければ「誤報だ」「根拠もなく書いたな」と思ってしまうかもしれません。

 実際、ネット上の書き込みを見ているとそう判断されている例が多いようです。しかし、同じ記事をプロが読むと、そもそも実現性が低いことがわかる表現が使われていたりするのです。

  この手の「知られざる新聞表現のルール」はたくさんあります。こうした知識があるかどうかで、新聞から得られる情報の質はまったく違ってきます。当然、記事に書かれた情報を分析する際にも、その精度や深さに大きな差が生じるのです。

  こうした情報格差が生じてしまった責任は、もちろん報道機関の側にあります。新聞記者だった私自身にも、「記事の表現にどんな意味を込めているのか」「どんな制約のもとで書かれているのか」といった情報を、読者にきちんと伝えてこなかったという反省があります。

  そこで、この連載を通じて、ニュースを正確に読むための基礎知識とノウハウを公開することにしました。

  連載を一通り読めば、これまで紙の新聞を読んだことがなかった人はもちろん、長年、新聞を読んできた人でも、「以前よりニュースを深く理解できるようになった」という実感を持っていただけるはずです。

 新聞記事を読み解く技術は、新聞以外のメディアの情報を分析する上でも有効です。だからこそ、就職活動を始めた学生や新社会人は「新聞を読め」と言われるのです。ぜひこのノウハウを自分のものにして、ニュースの分析やビジネスに役立ててください。

おまけ 

 最後に一つ、お願いがあります。この連載では、記事中にときどき鳥の足跡マークTwitterでシェアが出てきます。これをクリックすると、その前の下線部の内容をツイッターでつぶやくことができます。

 私はできるだけ多くの人に、新聞の読み方について知ってもらいたいと考えています。もしみなさんが「面白い」「ためになる」と感じた内容があれば、このボタンをクリックして友だちにも伝えてほしいのです。この連載は書籍化することを前提に書いているので、みなさんの感想や、どの部分がとくに呟かれたかなどの情報は、書籍化する際の参考にさせていただきます。

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