[ 連載 ]

『AIが変えるクルマの未来』刊行によせて

第2回|家電と同じ轍を踏むなかれ

2017/2/18

AI、自動運転、シェア、電気自動車、クルマの未来はどう変わるのか。AIと日本の自動車産業のかかわりを、技術的側面、産業的側面のみならず、制度的側面も含めトータルにとらえ、その現状を分析する中村吉明『AIが変えるクルマの未来 自動車産業への警鐘と期待』。本書の刊行を記念して、全3回にわたるエッセイで、その内容の一部を紹介します。

 

アンバンドリング――「すりあわせ型」から「モジュール型」へ

 最近のCASE(C:コネクテッド・カー、A:自動運転車、S:シェアリングエコノミー、E:電気自動車)の急激な動きにより、自動車組立メーカーは、「アンバンドリング」と「カニバリゼーション」の渦中にある。それぞれの動きは、自動車組立メーカーにどのような影響を及ぼすのだろうか。

 日本の自動車組立メーカーは、自らが頂点としてヒエラルキー型の「系列」という分業体制を持っている。ただ、この「系列」自体、一頃より緩やかになったものの、依然として、主要部品はTier1(ティアワン)と言われる一次部品メーカーから調達しており、Tier1はTier2と言われる二次部品メーカーから調達し、それがさらにTir3、Tier4につながっていくという階層構造になっていることが多い。その結果、一台の自動車を作るのに、多くの企業が関わっている。

『AIが変えるクルマの未来』より

 このようななか、日本の組立メーカーは、微妙な操作性や乗り心地が日本の強みだと考えて、系列企業同士の連携を活用した「すりあわせ型」の生産方式をとってきた。しかし、すべての顧客がそこまでの性能を求めていたわけでなく、最近では「モジュール型」も「すりあわせ型」に負けない品質のクルマを作れるようになっている。

 フォルクスワーゲンは1990年代にはすでにプラットフォームを4車種に集約して部品を共通化し、「モジュール型」の生産方式をとった。日本でも、日産が2012年2月に、新世代車両技術「日産コモン・モジュール・ファミリー(CMF)」を発表し、「エンジン部」「車台全部」「運転席周り」「車台後部」の4カ所と電子部品をまとめる電子アーキテクチャーからなる「4プラス1」のモジュール化を進めている。さらに、トヨタも、2015年12月発売のプリウスから、これまで車種ごとに開発していた部品を共通化・モジュール化し、クルマの基本性能や商品力を向上しながらコスト低減につなげることを目的に「トヨタ・ニュー・グローバル・アーキテクチャー(TNGA)」を導入した。

 他方、自動車のエレクトロニクス化も進んでいる。従来の自動車はメカニカルエンジニアリング中心で作っていたが、最近では制御機器をはじめとした様々な機器に電子部品が使われるようになっている。AIもコネクテッド・カーや自動運転車に必要不可欠だ。

 しかし、これらは自動車組立メーカーにとって異分野の技術であり、多くの場合、内製やTier1、Tier2などの関連会社では対処ができない。結果として、外部のモジュールを活用することが増え、モジュール化は一層進むこととなった。「系列」はさらに緩やかなものとなってきているのだ。

『AIが変えるクルマの未来』より

 言い換えれば、「系列」という旧来の自動車組立メーカーを頂点としたヒエラルキー構造が壊れ、徐々に「水平分業型」に移行しつつあると言える。つまり一社が統合して一つの自動車を作る必要がなくなってきたのである。

 クルマの製造は、自動車組立メーカーでなくてもモジュールを組み合わせて作れる「アンバンドリング」の世界に向かいつつある。

 

カニバリゼーション――次世代自動車のシェア競争

 最近、いくつかの国や企業で次世代自動車は電気自動車(EV)であるとのステートメントが出され、世間を賑わしている。

 その一つが、フランスである。マクロン政権は、2040年までに、ガソリンエンジン車、ディーゼル車の販売を禁止し、電気自動車の普及を加速すると発表した。イギリスも、2040年までに国内でのガソリンエンジン車、ディーゼル車の販売を禁止する方針を打ちだしている。

 さらに中国も、2019年から自動車組立メーカー各社の乗用車の年間製造・輸入台数の一定割合を新エネルギー車(NEV: New Energy Vehicle:電気自動車とプラグインハイブリッド車(PHV)と燃料電池車(FCV))にするように義務づけることになった。

 個別企業では、スウェーデンのボルボ・カーが、2019年以降に発表する全車種を電気自動車やハイブリッド車などの電動車とし、ガソリンエンジン単独車の販売は順次打ち切ることとした。フォルクスワーゲンは、2025年までに電気自動車を50車種投入すると発表している。

 日本勢は若干遅れているが、ホンダは、2030年に3分の2を、ハイブリッド車を含む電動車に置き換える構想を描いている。トヨタは、2050年を目処にガソリンエンジン車をほぼゼロにする目標を立てている。

 このように短期的には電気自動車(EV)が次世代自動車の主流になると思われるが、まだ、プラグインハイブリッド車(PHV)、燃料電池車(FCV)、ハイブリッド車(HV)も戦線から離脱した訳ではない。したがって、自動車組立メーカーは、次世代自動車の候補となりうるPHVとFCVとHVとEVを引き続き生産しているわけだが、これらは限られた市場の中で、いわゆる「共食い」状態、カニバリゼーションを起こす可能性が高い。しかも自動車組立メーカーにとっては、それぞれの資源配分を誤ると負け組となってしまうのである。

 

家電と同じ轍を踏むな

 まず、統一的な調整が必要なくなりつつある今、組立メーカーが生き残るためのアンバンドリング対応は、電気自動車に使われる次世代蓄電池など、魅力ある個別モジュールを作る道しかないであろう。今は、系列筆頭の組立メーカーとして、個別モジュールで競争力のあるAI半導体のエヌビディアやライドシェアリングのウーバー・テクノロジーズなどが提携を結んでくれるが、さらにアンバンドリングが進んでいくと、自動車組立メーカーは見向きもされなくなってしまう。組立メーカーは、付加価値のない組み立てだけを行う会社になってしまうかもしれないのだ。そうならぬために、今のうちから個別モジュールを磨いていくのが必須であると思われる。

 次に、カニバリゼーション対策だが、これは分社化しかないと思う。まずは電気自動車(EV)の分社化を考えた方がいいであろう。競合のFCVやPHVやHVと同じ会社内だと、資源配分などについて適切な意思決定ができなくなってしまうからだ。

 また、クルマの製造も、EMSのように製造に特化した会社として分社化した方がいいと思われる。将来的には、そこで関連会社だけでなく他社のクルマも、またEVのみならず、PHV、FCVも組み立てられる会社を目指すべきだ。

 サービス会社も分社化した方がいい。今後、さらにライドシェアリングを進めることになると思うが、これはタクシー業界と真正面からぶつかることになるからだ。今、自動車組立メーカーにとって、タクシー業界は継続的にクルマを購入してくれる安定顧客であるため、業界の意向に反するライドシェアリングの積極的な導入ができずにいる。

 総合家電メーカーが「総合」ゆえに競争力を失ったことを考えれば、自動車組立メーカーも同じ轍を踏まない戦略を考える時期に来ている。100年に一度の大転換の時期なのだから。

⇒次回2月24日更新予定


目次

序章 AIがゲームを変える
第1章 激変する自動車産業――AIとモジュール化
第2章 自動運転――モノづくりからサービスへ
第3章 つながる革命――スマート工場とコネクテッドカー
第4章 シェアリングエコノミー――破壊的イノベーション
第5章 だれが成長を妨げるのか――法規制のゆくえ
終 章 日本の産業構造をどう変えるべきか

 

 

 

 

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