[ 連載 ]

マンガこそ読書だ!!

第1回 『白馬のお嫁さん』(庄司創)

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 ときは2063年。15歳の春、故郷の島を出た清隆は、寮で三人の同級生と出会う。
一見かわいい女子にしか見えないが、実は遺伝子改造で子どもを「産める」男子だという彼らの目的は、高校での頼れる「お嫁さん」探し。実は清隆も、故郷に一緒に帰ってくれるお嫁さんを探す目標をもっていた。協力し合うことにする清隆たちだが、いきなりさまざまな事件が起こり…?

 近未来の日本を舞台にした本作は、SF的な変則ラブコメディだ。
のっけから「主人公男子が、これから生活をともにするかわい子ちゃんたちと、寮のお風呂場で遭遇してドッキリ!」という過剰なまでのベタなラブコメ展開だが、かわい子ちゃんが実は遺伝子改造された男…というひねりが一筋縄ではいかないところ。
さらに天災で寮が被災してしまい、彼らは清隆の実家が所有するシェアハウスの一つ屋根の下で暮らすハメに。立派な体格に似合わぬものすごい心配性だが心優しい清隆も、実は遺伝子操作による能力を隠し持っていて…という謎も見え隠れしながら、物語は進行していく。

 遺伝子操作による「産める男」が存在する近未来、という世界観は、作者のデビュー作「三文未来の家庭訪問」とつながっているが、本作は連載ということもあってか、物語展開のエンタメ(ドタバタなラブコメ)度はよりアップしている。
 その一方で「三文未来…」同様、作中の約50年後の近未来描写はさりげないのに練られている。たとえば、ゲリラ豪雨の際は「歴史的風土特別保存地区」においては天候制御ネットがはられ、ネット内に入るようアナウンスがあったり(でも天候すべてをコントロールできるわけではない不完全さがリアルだ)、高齢者はパワー補助スーツを着用して身体機能を補っていたりして、地に足のついた描写には説得力がある。

 本作の持ち味が凝縮されていると感じたのが、清隆たちが暮らすことになるシェアハウスの電気・水道の開栓、というなにげない場面だ。
現代では人が行っているこの訪問作業、作中の未来ではロボットがやってくれるが、ロボットと言っても判断はオペレーターがモニターを通して、しかもパキスタンのコールセンターで遠隔対応、というのも、コスト面の合理性追求の結果、「ありそう」な近未来像だ。そのロボットが、階段はひょこひょこ歩いて昇ったり、屋内に入るときは人間が靴を脱ぐように屋外用のカバーからさっと「足」的な部分を抜いて移動したり、とユーモラスな動作に高度な技術が結集されてるのだろう、と思わせてくれるのも楽しい。さらに、ロボットの動きに感心する清隆に、「産める」男子の一人が、不景気な日本ではこういうロボットが人間の仕事を奪った…という指摘をすると、それまでふわふわした印象だった他の「産める」男子がさらっと、こう反論するのだ。
「生産性の低い人にどういう仕打ちをするのかは政治の問題だもの」
「僕はロボット好きだよ」

 技術発展の象徴みたいなロボットに社会の問題を凝縮して反映させつつ、ロボットに対する見解という形で、「産める男」というマイノリティの男子が、実は社会問題を冷静に見据え、ロボットをさかうらみするのではなく技術の進歩は進歩としてポジティブにとらえる知性と心の余裕をあわせもっていることが、短いシーンの描写にぎゅっと詰め込まれているのだ。この「理屈っぽさとやわらかさの同居」が、読んでいて気持ちがいい部分だ。

 作者は「私の作品は言いたいことを言うための思考実験のようなもの」と語っているが(『フリースタイル 25』p.62)、本来、緻密な理屈を積み重ねるようなことはかなり不得手で感情優先タイプと自認する私のような読者にとっても、本作はとっても魅力的だ。
 それはなぜかといえば、我々が漠然ともっている「どうも現代社会では、こーゆーところが息苦しいよ」という問題意識に「じゃあ、たとえば産める男が存在すれば?」と思いもかけない想像力で作り上げた世界が提示される「思考実験」の面白さと同時に、主要人物達がなんだか、理路整然とものごとを考えつつキュートでやさしいからだと思う。「思考実験」だけが暴走するのではなくて、「そうなったときに人はどう反応するか?」にリアリティが、それも温かい現実味があるのだ。そういう「理屈と感情のバランスの良さ」が作者の持ち味だと思うが、さらに私の言葉で言わせてもらえるなら「頭も、性格もいい人の作った世界」という感じがして、そこが心地いいのだ。…なんとも頭悪そうな言い方で恐縮です。

 でも、頭がいい人は他人の愚かさが目につきすぎて排他的になりがちだし、性格がいいと優しすぎて問題をつきつめるのが苦手になったりしがちなわけで、この両立は実はけっこう難しい。そんななか、知性で制御されつつ感情を排除しない庄司ワールドは、「そうか、知性と感情は対立項じゃないんだ」「両立させたら一番いいよね」と読む人をにっこりさせてくれる気がするのだ。

 もちろん、「見た目はかわいい女の子で、子供も産めるけど実は男」という存在が登場することで、「男女って?」「母性って?」と固定概念にハードなゆさぶりをかけてくれるし、彼らが高校でお嫁さん探しをする理由は格差を背景に「階層変化が起きるのはたぶん高校のみ」というシビアな認識に基づいていたりする。硬派な問題提起をラブコメ風味で表現しているのが本作の面白さだ。

 やわらかいけど決してヌルくはない。自信をもってオススメしたい一作なのである。